〜きんにく瓦版〜

筋肉ドクター  小島 央

目次

はじめに

第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
第6回
第7回
第8回
第9回
第10回
第11回

 

 

はじめに

この「きんにく瓦版」は、アイデアマンである大阪ボディビル連盟、ジャングルジムスポーツ小川会長がボディビル、筋トレの普及のために発行され大阪圏内のフィットネス施設に配布されていたフリーペーパーに私が寄稿したものです。しかし、どうやら今は廃刊となっているようですので、ここに今までの寄稿文を掲載してみることにしました。

 

第1回

初めまして。
筋肉ドクターのアイアンクリニック院長の小島です。
今回から、筋肉瓦版に執筆させて頂くことになりました。
今後ともよろしくお願い致します。

初めてですので少々自己紹介を。
私は現在整形外科医を生業として暮らしています。医者とか言いますと一般的に学業的エリートなどと捉える方が多いようですが、出身高校はコースは違いますがアホ母校ネタに島田伸介さんが使っている高校で、しかも2年から3年は判定及第と落第スレスレであがってますし、その後2浪生活した後に、偏差値もそれほど高くない私立大学に補欠合格し、通常6年の医学部大学生活を6年半送っています。
そして、現在、学位も無いですし、医師免許以外に専門医も認定医も、日本体育協会認定スポーツドクター以外は持っていないほぼノーブランドドクターです。

そんなギリギリボトムラインでスレスレ生活を生きてきた私には、難しいことは分かりません。
聞いたことも無いような医学専門用語をダラダラ並べて説明するようなことは期待されてもできません。

そして、今回は記念すべき第1回目ということで、私のテーマKIS原則、Keep It Simple、単純単細胞な考え方についてお伝えしたいと思います。

何が単純って、結局筋トレやっている人なんて単純、単細胞な人が多いわけで、どうせ生きてるなら弱っちく生きるよりも、強くかっこよく生きたいってことですよね。

しかし、頭の良い難しい人は、そんなに筋肉付けて何に使うの?とか大人びた疑問を持つわけです。
そういった人に限って、人生でほぼ学生時代にしか使わない受験勉強を必死にやってたりします。一生使わないって、そんな無駄知識。何に使うの?と単細胞な我々は逆に思うわけです。
単純なトレーニーはそんな下らない難しい勉強はしないですよね(高学歴なトレーニーの方ごめんなさい)。

筋肉つけたらかっこいいし、一生使えるし、少々衰えても強いぜ〜!!って単純な僕らは思うわけです。

そして、じゃあ筋肉を付けるのにはどうやったらいいんだ?って話にしても、単細胞で筋トレ好きな我々は、そりゃきっつい運動してたくさん食えば強くデカくなるだろうなんて単純に思うわけです。

しかし、医療現場では、この運動をすると何々筋が使われて、何々ホルモンが分泌されて、何々細胞が刺激されて、呼気ガス分析や血液データによりますと…などと意味の分からない難しいこと言いながら、弱っていく患者さんをろくに強くすることもできません。

と、単純な内容を書いていたら既に文字数をオーバーしてしまいました。
それでは次回をお楽しみに。

 

第2回

いつもありがとうございます。筋肉ドクター小島です。

前回に続き、徹底的に単純に考えるKIS(Keep It Simple)原則についてお話ししたいと思います。

このKIS原則、もともと軍かなんかで言われ出したことらしいです。やはり自分の命のやり取りをする状況で難しくごちゃごちゃ考えていると死んじゃうよってことから言われ出したのでしょう。

マクドナルドの創業者レイ・クロック、お金の本のベストセラー作家ロバート・キヨサキ、将棋の羽生名人、そして、元ミスターオリンピアのドリアン・イエーツもその著書の中でKIS原則の重要性について話しています。

やはりものごとを極める人物は、複雑なことなんか考えている暇なんてありませんから、根源的なところを単純に押さえて、サッと行動に移すということなんでしょう。

しかし多くの人は、何が単純で何が複雑なのかを考えたことも無いように思います。つじつまの合わない話、根拠が不明確な話は、通常おかしいと思うものですが、学校教育の影響でしょうか?多くの大人は話が複雑なほど信じるようです。

筋トレの話についても科学という名を借りてその波がやってきています。
前回もお話ししたように、きっつい運動すればそれに適応して身体は強くなり筋肉は大きくなるというのが単純に考えて正しいと思いますよね。
それは何故か考えてみますと、誰でもきつい仕事についたら最初はきつくても徐々に慣れるということを我々は知っています。また、大きい筋肉は大きい力を発揮できることを知っているからです。だから、きっつい運動が必要な環境に身を置けば、慣れて筋肉は大きくなるということですよね。

しかし、最近の筋トレの本などを読んでいますと、「このトレーニングをしたら成長ホルモンの分泌量が増えました。だから、この筋トレの効果は高い」とかいうような内容が書かれていたりします。

この成長ホルモンって何でしょうか?ほとんどの人は見たことも感じたこともないものですよね。そのトレーニングをしたら本当に分泌量が増えたのか?成長ホルモンが増えたら本当に筋トレの効果が高くなるのか?本当に多くの人が間違いないことを確認したのか?ちょっと単純に考えると、つじつまが合うのか根拠が明確なのかもはっきりしない疑問だらけの内容です。

ある意味、裸の王様と同じです。馬鹿には見えない服を王様が着ていると聞いて、大人はみんな王様が裸であることを言い出せませんでした。もしかすると私達は、馬鹿には分からない科学をおかしいと言い出せないのかもしれないと思いませんか?

それでは、また来号。

 

第3回

いつもありがとうございます。筋肉ドクター小島です。

今回もまた、徹底的に単純に考えるKIS(Keep It Simple)原則についてお話ししたいと思います。

前回は見えないホルモンなどを盲目的に信じることは単純な話ではないということをお話しました。こういった、分析してメカニズムを解明するという方法を要素還元主義などと言うのだと思います。今回はそれに関連した階層原理という話をしたいと思います。

これはどういう原理かと言いますと、階層、次元の違う話は矛盾することがあるという話です。
物理学においても正確に物事を表そうとすると大きなものはアインシュタインの相対性理論が成り立つとされていますが、微小な原子や素粒子くらいの話になると相対性理論が成り立たず、量子力学が適応されることが知られています。

簡単に分かる例では、素晴らしい選手が集まったからといって良いチームになるとは限らないと言えるかと思います。プロスポーツで、お金を持っているチームが良い選手を集めても、必ず優勝するわけではありませんよね。
選手という階層、次元とチームという階層、次元では良し悪しが一致しないということが分かると思います。

このことから、素晴らしい人間が集まれば必ず良い社会ができるとも限らないし、よい社会が集まれば必ず良い国が出来るわけでもない、良い国が集まったら必ず世界は良くなるとも限らないとも言えます。
もちろん占星術なども、この階層原理から言えば、星の動きと人生は階層が違い過ぎて、影響を与えるとは思えないかと思います。

また現在、遺伝子の研究などが盛んになされていますが、よい遺伝子が必ず良い細胞、良い組織を作るとは限らないと言えるかもしれませんし、良い臓器組織があつまれば健康で強い人間になるとも限らないと言えるかもしれません。その他の環境などの因子がどのように影響を与えてくるかも分かりませんしね。

このように考えると、強く健康な人間になるのにホルモンの動きなどを多少解明しても、本当に元気で強い人間になれるのかを知ることは階層原理からすると難しいと考えられます。

この階層原理を頭に置いて単純に考えると、人間が強く健康になる方法は人間レベルで考えることこそKIS原則であると言えるかと思います。

それでは、また来号。

 

第4回

いつもありがとうございます。今回も宜しくお願い致します。

今回はハロー効果というものについてお話ししたいと思います。
このハローというのは、挨拶のハローではなくて、後光のハローのことです。

このハロー効果というのは、ある対象を評価するときに顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のことです。

私たちトレーニングしている人も、ついつい結果を出しているボディビルダーの意見を尊重する傾向にないでしょうか?
実際トップレベルで活躍しているボディビルダーのセミナーがあったりすると、きっと我々が知らないトレーニングの秘密を知っているんじゃないかなどと、聴きに行ったりしてしまいますね。もちろん、話よりも生のポージングを近くで見たいというだけの目的の人もいるかもしれませんが。

しかし、結果を出している人が、その結果を出せた原因を全て知っているのかと言われたら、微妙な話だと思いませんか?
100m走速くなりたかったら、ウサイン・ボルトに聴くと一番速く走れるようになるとはきっと思わないでしょうし、自分がボルトと同じ速さで走れるようになるとも思わないでしょう。
もちろん、一流選手はそれなりの困難を克服されて一流になられていることが多いでしょうし、一流だからこそできる体験などもありますから、その体験談を聞いて刺激を受けるというのもありますね。

自分がある目的を持って成果を出そうと思う時に、このように結果を出している人から聞けば間違いないということは無いのですが、ついついそれを信じてしまうのをハロー効果とういわけです。

もちろん、研究者が言ったから正しいとも限りません。研究者というのは一つの部分を細かく追求している方が多いので、例えば効果的な筋トレについて知りたくても、その研究者がホルモンの専門家だったり、細胞の専門家だったり、栄養の専門家だったりすると、それぞれに意見が違ったりします。
一つの知識に詳しくても、全てを知っているわけではありませんからね。

複雑な情報が溢れる現代に生きる私たちは、なかなか正しい情報というのが分かり難かったりします。まったくハロー効果を使わずに正しい知識を得るのも難しいことですが、ある人の意見を盲目的に全て信じるのも危険です。

そう考えるとやはりKIS原則が重要になってくると思いませんか?

それでは、また来号。

 

第5回

今回は筋トレの有効性を統計によって証明することについて考えてみたいと思います。

昨今、医学界でもEvidence-Based Medicine(EBM)と言いまして、統計的に有効性が証明されたものevidenceを念頭において診療しましょうという概念が、ネットの発達とともに言われるようになりました。
それまでは主に、権威者の研究やその医師の経験による診断、治療が行われていたのですが、世界中の統計データなどが簡単に閲覧できるようになった昨今では、医師個人の経験や権威者の見解に頼るのではなく、医学統計データから根拠のある医療を行いましょうということになってきています。
簡単に言えば、上の先生に習ったことをやる医療じゃなくて、最新の信頼のおける統計データも参考にしましょうってことです。

筋トレについても、結果を出しているトップビルダーの見解や、どこかのトレーナーや教授の書籍や講演などを参考に自分の感覚でトレーニングされている方が多いのではないでしょうか?

しかし実際、筋トレ:レジスタンス・トレーニングについてですが、レジスタンス・トレーニングの中で、このトレーニングとこのトレーニングの有効性の比較みたいな統計はあまり見かけません。

レジスタンス・トレーニングの効果のような医学論文が結構出ているにも関わらず、その内容は、伝統的な10回3セット的なオーソドックスなもので済まされていることが多い気がします。

では実際にどういったトレーニングが効果的かを証明しようとすると、筋トレの効果に影響を及ぼす因子を考えると無限に要素があります。
同じ種目においても様々なフォームがあり、レップもセットもいくらでも変動できますし、心理的な要素まで検証しようとすると評価のしようがありません。その要素1つ1つについて、どれが最適かという話になりますと複合的で複雑で科学が苦手とする無限要素の処理になります。
天気予報と同じように、明日の降水確率さえ外れるような話になってしまいます。前日の降水確率100%で晴れたこと無いですか?

しかし、無限に要素があっても、打球の落下地点など、人間の感覚は素晴らしく即座に予想します。人間には複雑な要素を単純に読み取る力があるのです。
じゃあ、複雑な要素の絡みあう筋トレは統計じゃなく、感覚だけで良いかと言うと、そうとも言えません。
医学という科学者の衆知を集めたつもりでいたものでさえ、統計データと矛盾した結果が出てくることもあるのです。

結局EBMもevidenceだけで治療しましょうってことじゃなくて、evidenceを念頭に置いてあとは様々な状況に応じて匙加減しましょうって話になるのは、evidenceといえども所詮天気予報レベルの確率の話しか出来ないってこともあるのだと思います。

よって私は統計だけで、どの筋トレが有効かを証明することはまず不可能だろうと思っています。あくまでもevidenceは参考にということで。

 

第6回

いろいろと難しい分析主義的な話も考えてみると、難しい話には穴があり、単純に考えるのが筋トレ、健康については大事そうだということが分かって頂けていると思います。

しかし、私達は幼少期から、分析主義は素晴らしい、分析すれば何でも分かると教えられて育っていて、世の中の絶対真理・金科玉条こそ科学だとマインド・コントロールを受けています。分析主義的研究結果がこうだから、これが正しいと言われると盲目的に信じてしまいます。

しかし、筋トレのような複雑なものを研究するのには前回までに話したように分析主義は不向きな場合があると思われます。

では、単純に考えるのが良いという単純とはどういう考え方でしょうか?多くの人に統計上有効性のあるものでもなく、要素還元主義でメカニズムを分析するものでもなく、結局、歴史、時間の流れで我々が常識と思われる単純な現実を元に考えるということになります。
しかし、この常識というのも迷信を盲目的に信じているだけのものが多いので、出来るだけ見える体験できる現実を元に考えることが重要です。

だから筋トレしたことが無い人が筋トレの理論をあれこれ言うのは、正に空理空論で信じるに足りるものでは無いと思います。

よく言われる例ですが、水泳の教本を片っ端から熟読した泳いだことのない人と、子供の頃からよく泳いでいるけど教本を読んだことがない人と、どちらが泳ぐのが上手いか、泳ぐことを知っているかと言われれば、明らかに泳いだことのある人ですよね。

だいたい、筋トレというのは筋肉が成長肥大する行為であるはずであって、筋トレをしているという人で、ちっとも一般人と変わらない体型をしているという人は、いくら教本を多く読んで実践していたとしても、筋トレを知っているとは言い難いですよね。

では、結局、筋トレとは何かと言いますと、最初に言ったように、筋肉がきつい運動、強度の高い運動に慣れる、適応する反応であるということ以上に言うこともなく、ただそれだけが真実だというのが、私にとって一番分かり易い単純な事実だと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか?

 

第7回

私ごとで恐縮ですが、きんにく瓦版編集長命名の「キストレ」本が発売になりました。

今まで瓦版にKISS原則についていろいろ述べてきましたが、この本にはKISS原則に則ったトレーニング、キストレの情報が満載です。

この本を読めば、もうここで私はトレーニングに関しては何も言うことがありません。

ちなみに今までKIS原則って言っていたのがS一つ増えてるぞと思われた方もおられるかと思います。KISはKeep It Simpleですが、KISSはKeep It Simple, Stupidの略です。馬鹿正直にみたいな感じですか?愚かなほど単純にってことです。

しかし、この単純さが皆さん大人になるとなかなか逆に分からなくなっている方が多いように思います。だからこそ、多業界の偉人達が口を揃えてKIS原則が最重要と言うのでしょう。

多くの大人は単純に考えろと言われると、常識に照らし合わせて判断することが正しいと思っているフシがあります。

私が考えるKIS原則の単純さは常識をも疑い、更に単純に考えるということです。常識にすらほんまかいな?と思う心を持って、何故、なんで、Whyと突き詰めて行き、最終的に世の中そういうものだっていう究極のところまで行って、そこから考えることを、単純に考えるKIS原則と呼んでいます。

何度も言いますが、我々は科学教育を柱として教えられてきた常識というマインド・コントロールを受けています。そのマインド・コントロールを解くには、本当?ほんまかいな?、何故?なんで?がとても重要だということです。これは、最近読んだ本にも載っていました(別に関西弁に訳すことが重要だって意味じゃないですよ)。

また、過去に宗教的ドグマが支配していた世界から脱却し、現代の科学的思考の世界になったのも、ほんまかいな?なんで?を追求してきた人によってなされたものだと思います。

なにか問題が発生した時に、こうやったらいいよっていう解決策を聞いた時、ほんまかいな?なんで?とちょっと立ち止まって、もっと単純にと考える思考法こそがKIS原則と言えるでしょう。

私なんてそれだけで生きていますからね。人生KIS原則ほど役立つものは無いと思う今日この頃です。

では、また。

 

第8回

「キストレ」を発売してから、皆さんが分からない部分はどうやら運動強度の説明みたいです。

KISS原則で単純とか言いながら難しいやないか!と思われる方も多いようです。

単純に考えて筋力を鍛える運動とは高強度、低容量、低頻度の運動だというところは、皆さん理解できる?ようです。
でも、この知識だけでも、医療従事者の運動知識を十分凌駕しているのですが。

で、この強度、容量、頻度ってのですが、よくよく読んでみると、非常に文学的な感覚的な表現だということを、学生時代に多少でも物理学を勉強したことのある人なら思うはずです。
私は学生時代、この強度ってのはなんだ?っていうのが疑問でした。

確かに筋トレをした後の筋肉痛は、その他の運動に比べて時間が短いにもかかわらず、きつく出ます。結果的に運動強度は高いだろうと思うわけです。

しかし、1RM(最大挙上重量)を1回持ちあげるくらいの高重量の運動をしても、大して筋肉痛にもなりませんし、きつくもありません。

筋肉痛だけで言えば、登山などした後も、脚の疲労感は物凄いものです。しかし、筋トレ後の筋肉痛とはちょっと違うすぐ足が攣りそうな疲労感で、感覚的ですが質が違う気がしませんか?(と、ストロング安田さんもおっしゃっていました。)

で、結局、この強度ってのは物理量で言うパワーだと言っているわけですが、これが分かりにくいようです。

簡単に言うと、皆さん○kgで△回(何故かマニアなあなたは△発と言いますが)できたとか言いますが、この○kg×△回は物理量でエネルギー、カロリー量と比例する値となり、この値を時間で割った値をパワー、仕事率というわけです。
簡単に言うとパワーは、いかに短時間でエネルギーを使い切る運動をしているか、瞬発力とか爆発力みたいなものになるってことです。

ついでに、強度、容量、頻度の容量ってのがエネルギー、カロリー消費量と考えれば良いと思います。
だから、○kg×△回が多いのを自慢する人がいるかもしれませんが(ちなみにDr.中松はこれを自慢していました)、純粋にこの値を最大限にしようと思えば、マラソン的な有酸素運動が最大になると思いますよ。
しかし、これでは筋トレにはならないことは、本を読んだ方なら分かるでしょう(え!まだ、読んでない!?)。

頻度はまあ、分かりますね。週に何度トレーニングするかって話ですね。


人間生きていれば、活動でエネルギーを使うわけですが、よく動く人は消費エネルギー量は多いでしょう。でも時々週に1回程度は、一気にエネルギーを使う10RM程度のきつい運動をしていないと、筋肉が加齢変化で衰えようとするのに抵抗できないということです。

わかるかな?

 

第9回

今まで科学的トレーニングというものの不確かさの話をしてきました。要するに当たり前のことを当たり前に考えるというKIS原則で、正しい筋トレは十分に分かるということです。

何も採血検査したり筋肉を切り取って構造を調べたりしなくても、様々なトレーニング法を多くの被験者で実験しなくても、人間は適応する、慣れるということだけ分かれば、あとは多少の物理法則を前提に考えれば、どういう運動が筋トレになるかは分かるということでした。

しかし、この適応するという考え方と、有名な生物学の原則ホメオスタシス(恒常性)について、私は違和感を感じます。

このホメオスタシスというのは、生体の内外の環境因子が変化しても生体内部の環境が一定に保たれるというもので、それが生物の特徴であるというものです。

例えば思いっきりダッシュして血圧が上がったとしても、その後休んでいると徐々にもとの血圧に戻るといったものがホメオスタシスと言われています。

では、糖尿病や高血圧などが安定した状態になっているのに病気というのは何故?とか、環境に適応したり、成長して加齢変化していくのは恒常性?という疑問がわきませんか?

病気になると安静というのも、このホメオスタシスを定説とした時の考え方じゃないでしょうか?ストレスの少ない状態で維持さえすれば、そのうち体内は健康な状態へ戻ってくれると(ちなみに、ストレス反応とは生体内外のあらゆる刺激(ストレッサー)に対して、体内が非特異的反応を起こすというもので、俗に言う精神的ストレスという意味ではありません。)。

しかし、安静という行為は実は非常に危険な行為であるということは医学的には常識です。エコノミークラス症候群などは有名ですし、手術、入院中の安静状態による弊害も多々報告されています。また、安静によって何らかの病気が改善したという医学論文は今のところ一件も無いということです。
要するに、病気になった時安静にしなさいというのは、医師のフィーリングであって根拠の無い説明なんです。

ストレスという言葉を発明?したハンス・セリエはストレスとは「人生のスパイスのようなものだ」と、ストレスは少ない方が良いというホメオスタシスに立った考えを持っていたようです。

私としては強度の高い運動こそが体力を維持向上する唯一の方法だと考えていますし、ストレスは健康のもととしか言いようが無いと思いますが、皆さんいかがでしょうか?

それでは、また。

 

第10回

今回はキストレセミナー(私の筋トレセミナー)でウケの良い技術と能力の話をしましょう。

運動競技の上手・下手という中に大きく二つの要素、技術と能力があります。
運動競技の指導者、医療者などの専門家でも、これを分けずに考えておかしなことを言っている気がするので、ここでお話したいと思います。

昔の指導者は、ある競技で強くなりたければ、ひたすらその競技練習をしなさいと指導したかと思います。昔の指導者は筋トレなどを否定しがちで、筋力を付けることで競技パフォーマンスが落ちるなどと理屈の通らない話をする指導者も多かったように思います。
しかし、現在では筋トレの時間もあったりレクリエーション的に違う運動をしてみたりといった指導もなされるようになってきていると思います。

では、なぜそのようになったかと考えますと、その運動競技の練習ばかりやるようでは激しい競技ではオーバーワークになり故障の原因になりかねませんし、競技練習というのはほぼ技術練習ですから、成長期ならそれだけでも能力も一緒に向上しますが、成長期を過ぎるとあえて能力を維持向上するような運動もしていかないと、競技パフォーマンスの低下を招きます。

最近のアスリートの選手寿命が延びているのは、そういったことが影響しているのではないでしょうか?


では、能力と技術は何が違うでしょうか?

まず、能力はまぐれがありませんが、技術はまぐれがあるということです。
ゴルフの一流プロとあなたがパッティング対決したとします。勝てる可能性はゼロではありませんよね。これは技術力の違いで一流プロは高い確率でパットを決めているだけで、身体能力的にはあなたとそれほど差が無いので、あなたにも勝てる可能性があると思えるということです。
では、300kgのベンチプレスができる人がいるとしましょう。あなたは普段100kgがやっと挙がるくらいの筋力だとします。では、ベンチプレス対決で勝てる可能性はあるでしょうか?勝てる気がしませんね。
能力的に劣る場合は技術ではカバーできませんが、能力が拮抗しているなら技術で勝てるかもしれないということです。

それだけ能力というのは重要だと言うことです。
そして、人間の身体能力を維持向上する最も効率的な運動こそが筋トレだといえます。

ということで紙面の都合で、続きは次回へ。

 

第11回

今回は前回の技術と能力の違いの続きです。
前回、能力にはまぐれがありませんが、技術にはまぐれがあるという話をしました。

では、能力と技術の根本的な違いはなんでしょうか?

能力というのは肉体的機能、技術というのは脳神経の中身の情報です。
能力は心肺機能や筋力といったハード面、技術は脳神経のソフト面と言えます。

では、どちらが老化の影響を受けやすいのでしょうか?

もちろん、トップアスリートレベルでは技術も能力も鍛えないと競えるレベルを維持できないでしょう。

能力というのは、20歳頃までは普通に生活していれば自動的に向上していきますが、それから先は徐々に機能低下していきます。

一方、技術というのは、脳疾患や認知症でも無い限りそこそこ維持することができます。
例えば、小学校時代に自転車に乗りまくっていた子が、中学、高校と自転車に全く乗らず、大学に入って久々に乗ろうとしたとします。また、一から練習し直さなければならないでしょうか?そんなことはありませんね。ちょっとまたがれば乗れてしまうでしょう。

では2週間程度、床上安静を強いて、筋力、心肺能力ともに低下した若者はどうなるでしょうか?
床上安静を強いると筋力は1日0.5%、心肺機能は1日1%低下すると言われています。
実際、手術などで中学生くらいの子でもそういった状況になることがあります。
これはたったの2週間と思うかもしれませんが、全く立つことができなくなります。
立つ技術を忘れたのでしょうか?違いますよね。これは立つ能力が喪失したということです。

ここで、考えて欲しいのは赤ちゃんが歩けないのと、老人が歩けないのは一緒ではないということです。

赤ちゃんは最初歩く能力も技術も無かったわけですが、能力は自動的に向上します。
ですので、歩く技術を練習さえすれば歩けるようになるのは自明の理でしょう。

では、老人が歩けなくなるのは何故でしょうか?歩く技術を忘れたのでしょうか?
そうではないですよね。歩けるだけの体力、能力が無くなってしまったためですよね。
能力が無くなった老人に歩く練習をして、歩けるようになるでしょうか?
歩く練習というのは技術練習であって、能力、つまり筋力を向上するものではありませんね(バックナンバー参照)。

まず、能力、つまり筋力を向上するようにしていかなければ、歩けるようになるとは考えられません。

なのに、世の中の介護予防などと称するものに、正しい歩き方だの、バランスだの、コーディネーショントレーニングだの、コアだの、技術練習のようなことばかりなされている現状があります。
まあ、ほとんどのそういった指導をする人は正しい筋力訓練、筋トレを知らないという現状があるので仕方がないのかもしれませんが。

では、また次回。