〜理系のための筋トレ入門〜

筋肉ドクター  小島 央

 

はじめに


セミナーなどで筋トレという運動を力学的観点から説明しようとすると、多くの参加者は睡魔に襲われます。ですので、キストレ本やセミナーではどうしても力学的内容を省かざるを得なくなります。
ですが、ここでは敢えて理系的に論理的に筋トレという運動を明らかにして行きたいと思います。


運動には3要素あり、強度、容量、頻度と言われているが、それら3つともが文学的な表現であることに疑問のある私であります。どれも物理量ではありませんし、単位も分かりません。

おそらく、運動を科学する体育学の方々に理系の方が少なかったため、このような状況になったのではないかと思っています。
スポーツ競技における複雑な動きを伴った運動の世界では、感覚的、文学的な話も必要かと思います。
しかし、こと筋トレに関しては筋トレになる運動というものが筋肉がどう動いたかであり、力学的に明らかにされていないために、未だに正しい筋トレとはというものが理解されにくい、いや、理系のトレーニングしている人にしか正確に筋トレは理解できないのかもしれないと思っています。

で、効果的な筋トレとはと言うと、筋肉組織が肥大、過形成するメカニズムは?というところから筋衛生細胞が、成長ホルモンが、ミオスタチンがなどと要素還元論的に考えるのが運動生理学のように思われていますが、そんな難しい話をしなくても筋トレについては実は分かるのです。

混乱させる原因にウィダー法があると思います。
ウェイトトレーニング黎明期のボディビルダーがやっていた運動を分類して、ジョン・ウィダーさん(実はウィダー・イン・ゼリーのウィダーさん)が全てウィダー法という名前を付けたものです。
で、結果的にウィダー法が言うのは、直感法、筋幻惑法などと言いまして、全ての人に効果的なトレーニングは無く、同じ人でも同じことをしているとその運動に慣れてしまうので、いろいろやらなければならないということです。
こうなると、理論も糞もないですよね。しかし、現在の筋トレというのはこのウィダー法をベースにしているものが多いです。

そのウィダー法にケチをつけたのがアーサー・ジョーンズであり、アーサー・ジョーンズの言うことは、少なからず理系の私には理解しやすいものでした。
そのアーサー・ジョーンズの言うノーチラスシステムから、更に単純に理論的に発展させたものが私が提唱するKIS(Keep It Simple)原則によるトレーニング、キストレになります。



定量、定性


で、単純に考えることがKIS原則と言いますが、文系の人が考える単純さと理系の人が考える単純さが異なっているように思います。

血液検査などでも定量と定性というのがあります。

ここで文系の人は定性が分かりやすいのではないでしょうか?
定性とは、陽性か陰性かということです。例えばこの癌マーカーが陽性なのであなたはこの癌の可能性が高いですとか、陰性なのでこの癌の確率が低いですみたいな話です。

一方、理系の人は数値で表した定量の方が分かりやすいのではないでしょうか?この癌マーカーの量が○○mg/lの量でしたと言われると、だいたい人間のこのマーカーの量は☓☓mg/l〜△△mg/lの間が標準偏差内だからこの○○mg/lはこれぐらいだなと分かるわけです。

何故、文系の方が定性の方が分かりやすいのか。もちろん、定性の方は一目見れば分かります。ただ、本当に陽性、陰性が論理的に正確なのかという問題が出てきます。

血液検査の基準値(昔で言う正常値)は検査会社によって異なります。多くはその検査会社の健康そうな関係者の検査値を定量したものの平均値、標準偏差から+/-2SDを基準範囲と決めて、そこから外れるものを異常と決めるわけです。

となると、ある検査会社の検査で陽性とされた人が、別の検査会社では陰性と出ることもあり得るのです。客観的事実としての信頼度に劣ると言えます。
しかし、定量した値の場合は、この人のこの物質の血中濃度が○○mg/lだったと言えば、どこへ行っても間違いの無い客観的事実です。
正確さを理で詰める理系の人はこちらの方がより正しい、分かりやすいと感じるのだと思います。

要するに定性というのは感情的な話で、速い、遅い、熱い、冷たい、など、人によって感覚が異なりますし、比較対象によってもどっちなのかが異なります。○m/sの速さと言えば、どこへ行ってもその速さですし、○℃といえばどこへ行ってもその温度です。

このように、定量すると多様な人々の中でも数学を勉強している人の中で共通認識として客観的な間違いない話ができるわけで、この理解が得意な人が理系と言えるのではないでしょうか。様々な単位がありますが、基本的に単位が同じものは同じ次元と表現され、次元同士の掛け算、割り算で次元が変わります。そして次元の同じものだけ足し算、引き算が可能になります。

距離、時間、速度、加速度、質量などを次元の異なる話と言えます。距離を時間で割れば速度になりますし、速度を時間で割れば加速度になります。距離同士、時間同士、速度同士の足し算、引き算は可能ですが、距離と時間の値を足したり引いたりしても意味がありません。

このように、筋トレとは最も○○な運動であると言う場合、それが重量が重いのか、距離が長いのか、時間が長いのか、速さが速いのかなど、どの次元の話なのかが重要になります。

理系の人は話をしている内容の次元がはっきりする方が分かりやすいと思います。しかし、文系の人は曖昧な強いか弱いかのような感情的な話の方が分かりやすいのかもしれません。あの人は力が強いと言われると文系の人は分かりやすく、あの人は100sの重量で10回連続でベンチプレスができると言う方が理系の人は分かりやすいと言えるでしょうか。



KIS原則


私、筋肉ドクターの筋トレ(キストレ)とは?を定義すると「高強度な運動習慣に適応すること」です。どれだけきつい運動を筋肉がしたかが重要だと言うことです。ただ、このきつさと言うのは定量するなら何の次元の値が良いのかということです。

ここで単純に考えるというのは俗にいう科学的に考える、要素還元主義でメカニズムを解明することや統計学による証明ではなく、要するに自然原則で考えるということです。
私は、人間(万物)は変化し続けている、諸行無常を原則として考えています。そして、人間も変わり続けているわけですが、体内は平衡状態に保とうとする動的平衡状態だと考えています。ある程度の平衡状態を保ちつつ、加齢変化、適応変化し続けるのが生物だと考えています。

ここで簡単に筋肉が強くなるというのは、環境への適応でしかないと考えるのです。メカニズムは偉い人が研究すれば良いことで、生物は長い年月をかけて環境に適応するようになっています。この環境への適応反応を利用したものが筋トレと言えます。

で、筋肉のことは筋肉で考える。細胞レベルや人間レベルで考えるからややこしくなるのです。

筋肉は伸張されるか短縮するかと、収縮するか弛緩するかしかないということです。

伸張とは筋肉の長さが長くなることです。
短縮とは筋肉の長さが短くなることです。

収縮とは筋肉が求心性の力を発揮していることです。
弛緩とは筋肉が力を発揮していないことです。

ちなみに、筋肉は膨張できません。伸張する時は拮抗筋が作用してくれたり外力が加わるから伸張するのであって、自ら伸張することはできません。短縮は収縮すればできますが、弛緩して多少最大短縮から戻っても、拮抗筋の収縮や外力が無ければ伸張状態には戻れません。

筋肉は最大限に伸張されたところから最小限に短縮したところまでを動くことしかできません。そして、その中で収縮か弛緩しながら動作する以外ありません。

もちろん、全身的に加速度を受けた状態での筋肉の動きを考えると(チーティングなど)、ベクトル量など、どんどん複雑に考えられますが、単純に上記のように考えましょう。

ということで、鉛直方向に筋肉が吊るされた状態で、下に錘が釣り下がった筋肉で考えて見ましょう。

よく、体の動きは関節の運動ということで、関節を支点とした円運動で考えて説明される場合がありますが、そうすると、角速度、モーメント、トルクなど、筋肉の運動としての力学が捉えにくくなるので、筋肉が短縮伸張する1次元の運動で考える方が簡単に分かると思うので、そう考えましょう。

何故、鉛直方向かと言いますと、重力がまっすぐかかり続けると仮定できるからです。水平に筋肉を置いた話で運動を考えようとすると、負荷(この負荷も文学的表現ですが、まあ物理量の力と考えましょう)のかからない状態での筋肉の運動になるので基本的に筋トレとは負荷を掛けた状態で筋肉の運動をすることが多いので、こちらの方が筋トレ中の筋肉の状態を把握しやすいからです。



more is better


ボディビルダーでヘビー・デューティー・トレーニングの提唱者マイク・メンツァー「more is better.」は間違っていると言ってましたが、このmoreは何の次元のことを言っているのかというのが問題です。
more is better派の人も反対派の人も、理系的じゃないので、こういうフィーリングの議論になってしまいます。

moreがより多くの種目のことなのか、週何回という頻度のことなのか、一日何時間という時間の長さのことなのか、より速いスピードのことなのか、より多くのカロリー消費のことなのか、あげればキリがありません。

で、この中から私が最大の強度と言っている強度とは何かを明らかにしていきたいと思います。



言葉の定義



余談ですが、文系の人が物理の力学のどこで挫折するか、何となく分かってきました。
ある点がある直線上を移動します。そして直線上の2点間の距離Lを時間tで移動したとすると、その速度v=L/tとなります。これは誰がどう言っても感覚的にも速さです。

しかし、力と言うのは質量m×加速度aと習います。これは、文学的な力と表現するものとは異なっています。力という言葉を様々な場面で使いますが、物理量としての力は質量×加速度と定義しましょうという意味です。皆様が様々な場面で使っている力とは質量×加速度ですよと言っているわけではありません。
この、力という量が感覚的強さではなく、定量的な物理量として表すところから、文系の皆さんは混乱するようです。
しかし、力を質量に加速度をかけたものと定義すると、発揮される力というイメージのものと比較的近いと思われるわけです。
ある質量のものを加速しようとするときの積が力と感覚的に感じるものに近いと思いませんか。
そして、理系の方は力が質量×加速度と定義すると定量出来て分かりやすくないですか?と言われると納得できるわけです。

更に余談ですが、心理学的な話って本当にこの言葉の定義を疎かにしてイメージだけで話しているものが多いなと実感します。究極の文系な話です。
こころと言った時に、精神性のことを言ったり、意識のことを言ったり、感情的気持ちのことを言ったり、脳の活動だと言ってみたりと、全く何のことか分かりません。そして、こころはこうだ、いやそうじゃないと、議論になりません。こういう感覚的な話をしても人によって思っていることが違いますから、噛み合わないのは当然です。なので、言葉のイメージで話すのが単純だと感じるのが文系で、言葉の定義をしていく方が単純だと感じるのが理系なのかもしれません。



○sで□回とは?


よく、筋トレで何kgで何回できたとか言いますが、この○kg×□回というのは何を表す値でしょうか?○kgと言ってますが、質量mのことを表しているのではなく、負荷=力mgのことを一般的には○kgと表現していると思われます。重力加速度gは定数のようなものですからそう考えられるでしょう。
で、回数と言うのは何かということですが、筋肉が伸張したところから短縮したところまでの往復回数のことです。伸張したところから短縮したところまでの距離をlとすると、2lの距離の移動を1回と表現しています。ということは回数≒距離と置き換えることが出来そうです。
となると、○s×□回というのは力×距離と置き換えると、物理量の仕事という値になります。
この仕事というものと同じ次元のものに、エネルギーや熱量(カロリー)があります。単位はcal(カロリー)やJ(ジュール)で表されます。
よく、○kg×□回=△sチャレンジなどとやられていますが、これは最大消費カロリー、エネルギー、仕事への挑戦と言えます。
しかし、これは運動の3要素でいうところの、強度、容量、頻度で言うところの容量と考えるべきだと私は考えています。カロリーを多く消費する運動は?と言うと代表的なのが有酸素運動となります。有酸素運動にすべき運動は中強度であることを考えると、中強度で長時間行える心肺負荷の大きな運動こそが高容量な運動と言えます。
となると、○kgで□回出来たと言うのは、筋トレとしてはあまり重要な値では無いことが分かります。

スポーツ障害などと慢性的な負荷がかかることによって発生する痛みなどを起こすことを言いますが、スポーツ障害は主に、強度というよりもこの容量、頻度が高い総エネルギー量が高い運動が関節に休息無く加わった時に発生しているように思います。
試合時間など運動時間で表されることも多いですが、結局物理的には関節に加わったエネルギー量の問題ではないかと思っています。

なので、◯kgで□回できたなどとそれを追求しだすと、スポーツ障害の原因になると私は考えています。



強度の定義


では、負荷(力)の○kgが筋トレにおける強度として重要なのでしょうか。
1回しか挙がらない重量のことを1RM(1 Rep Maximum)と言いますが、なぜ1RMが筋トレ効果として推奨されていないのでしょうか。
もちろん、パワーリフティング競技をやっている方は1RMが重要でしょうが、1回挙げるテクニックもウェイトリフティングと同様重要になります。
では、なぜ最大負荷、最大挙上重量が筋トレに必要な最大強度と言えないのか。
これは私が考えるに、最大挙上重量を挙げる速さにあると思います。最大挙上重量を1RMの90%と同じ速度で挙げられるか。
どうしても最大挙上重量はゆっくりしか上げることが出来ません。すると、その1回挙げる時間内に1RMの90%の重量なら5回くらい上げられるかもしれません。
となると、強度というものにスピード、速度が関係していると思われます。そこで、質量m(×重力加速度g)×速さvという値が最大にすることが重要ではないかと思われるのでは無いでしょうか。
先ほどの○sで□回出来たというのは、それにかけた時間を問題としていませんでした。○sで□回を△時間で出来たと言う方が運動強度を表しそうです。
○sを□回挙げるのを、半日かけてやった人と1時間でやった人と比べた時、1時間でやった人の方がきついのは当然です。
で、質量m(×重力加速度g)×速さvとは何の値かと言いますと、物理量でいうところのパワー、単位はW(ワット)という値になります。もちろんこれもイメージで言うパワーではありません。
要するに運動強度とは最大パワーを発揮する運動を筋肉にさせるかと考えると良いと思います。

また、パワーの値は仕事率と呼ばれる仕事を時間で割った値と同次元であり、仕事率も単位はWです。
で、どうやらこのパワー、仕事率を運動強度と呼ぶと最も現実的な運動強度とイメージが合いそうです。

最近、運動生理学で使われる運動強度の値にメッツMETsがあります。これは、消費カロリー(kcal)=1.05×メッツ×時間×体重(kg)、で表されます。安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したものです。
このメッツが何を表すかと言いますと、先ほどの式からメッツ=消費カロリー/(1.05×時間×体重)となります。要するに体重辺りのパワーに定数をかけて安静時を1となるようにしたものです。
この式はあくまでも自重運動を基本としたい人が歩くのは何メッツ走るのは何メッツとかいう話で、強度の定量には適しません。



パワー、仕事率の定量


では、パワーを計測して一番大きな値を叩き出す運動をすればもっとも筋力を高める適応を促す運動となるのでしょうか?
私はその通りだと思います。

しかし、運動科学の世界では最もパワーが高い運動は1RMの30%くらいの負荷(今回は重さ)でやることになると言われているそうです。
これは体感的には結構軽い重量になります。本当でこれで一番パワーが高い運動になるのでしょうか?

この30%というのに私は疑問を持ちます。
パワーというのは仕事率と同次元と言いましたが、この算出方法に疑問を持ちます。
よくある関節を軸とした回転運動で考えると、パワーはトルクに回転速度をかけたものになります。このトルクというのは回転運動でのエネルギー、仕事のことで、それに回転速度(回転数)というのは速度をかけることで同じ次元の話ではあるのですが、回転半径が関節から重量までのアームの長さとなり、計算できますが、筋肉が短縮伸長する運動のパワーと同じ現象をとらえているように思えません。
この回転運動で計算している場合もあるかもしれません。

また、重りが動いた鉛直方向の距離で考えると位置エネルギーと呼ばれる値が計算できます。要するに重力場で上にあるものはエネルギーが高いのです。その持ち上げた位置エネルギー分を動かした時間で割ればその時に発揮されたパワーが計算できます。

ただ、回転運動で考えるのも重りの位置エネルギーで考えるのも、筋肉の往復の運動で考えると問題が出てきます。
短縮性収縮が発揮したパワーはどちらでも計算しやすいのですが、伸張性収縮で使われたパワーは物理的ものの動きからは計算できません。
これは等尺性収縮の場合にもいえるのですが、例えばあなたが重りを手に持って肩の高さで保持する。かなり辛いですし、あなたはエネルギー(カロリー)を使っているはずです。
しかし、物理現象としては動いてないので発揮された仕事(エネルギー)はゼロとなり、発揮されるパワーも自ずとゼロとなります。
逆に伸張性収縮では物理現象としては位置エネルギーを運動エネルギーに変換されたり、エネルギー保存の法則がありますから、何らかのエネルギーが増えたとなるわけです。あなたが頑張って力を入れながらゆっくりものを下す時に使われたエネルギーはマイナスになるのです。

ですので、消費されたエネルギー(カロリー)を実験的には呼気ガス分析、血液検査をしながら予測値を出して、それを時間で割ったりとかして発揮したパワーを計算したりするそうなのですが、あくまでも予測値のパワーしか計測できませんし、全身的なカロリー消費は計算できても筋肉が発揮したパワーは分かりません。

このように、強度の高い運動はハイパワーな運動と物理的に説明しても、現実としてその値を計測することは困難を極めます。
このような理由から1RMの30%が最大パワーが発揮できる運動になるという間違った認識になっているのではと、私は考えています。



パワーの大きな筋活動


では、筋肉を鉛直に吊るしたモデルに戻って考えてみましょう。
筋肉を鉛直方向に吊るして下にmの質量をぶら下げると鉛直下方にひかれる力F(=mg)、で最大短縮したところから最大伸張したところまでの距離hを動きます。
この状態から最大のパワーを発揮するにはどうすればよいか。
最大伸長したところからスタートしたとします。
すると最大短縮するところまでに使われたエネルギーは位置エネルギー分となりrhとなります。
それに要した時間がtだとすると、仕事率はmgh/tとなります。h/tは速さvですから、仕事率はmgvとなります。
これは短縮収縮の話ですが、要するにパワーの高い運動をしようと思うと、出来るだけ重い重量を出来るだけ速く上げるということが、筋肉にとってはパワーの大きい運動になります。

よくスロトレだなんだとゆっくり動く方が筋トレになるように勘違いしている人がいますが、筋肉の内圧が高い状態が維持されると血流が制限され、それによって成長ホルモンなどの分泌が促され、筋肉量が増すと言われている理屈です。要するに腕や脚の付け根を縛って血流を制限しやる運動と同様の状態を作り出すということです。
ただ、筋肉量の割に収縮の悪い筋肉が出来るそうで、ある意味見せかけの筋肉ができるというものです。

これもKIS原則で単純に考えると、血流を制限した状態が続くと、血流が途絶した状態で運動することに適応しようと身体は変化します。血流が途絶すると一番の問題は酸素欠乏になるということですから、酸素欠乏に耐える変化が筋肉に起こると考えられます。すると、筋肉は強くなる筋線維がハイパワーを発揮できる筋肥大を起こすのではなく、酸素欠乏に耐える筋肥大を起こすのではないでしょうか?

ですので、短縮性収縮でのスローはハイパワーな筋活動が筋力を強くするという適応反応から考えると意味がないと私は考えます。
血流を途絶させる運動は1oでも筋肉量を増やしたいというボディビルダーには使えるのかもしれませんが、体力をつけたい、健康になりたいと思う人にはあまり意味のない運動かと思います。

次に筋肉を最大収縮したところから最大伸張まで戻していく伸張性収縮の局面について考えてみましょう。
先ほど述べたように、この局面においては物理現象からはエネルギー消費はマイナス、ということで、時間当たりに消費されるエネルギーであるパワーもマイナスとなってしまいます。
しかし、現実として筋肉は収縮しているのでエネルギー(カロリー)を消費しているわけですが、では、短縮性収縮と同様速度を求めて伸張性収縮するとどうなるでしょうか。
伸張性収縮というのは外力に逆らって収縮させるわけですが、重力加速度に近い加速度で動かそうとすると自ずと伸張性収縮では無く、目的の筋肉が弛緩し拮抗筋が収縮することになります。
ですので、この伸張性収縮という局面でもできるだけハイパワーにしようとすると、パワーは時間当たりのエネルギー消費量ですから、目的の筋肉が抵抗するのがきついと思える程度の速さでゆっくり戻していかなければならないと言えます。



筋肉内摩擦抵抗


では次に、有名な筋力の強い順番について説明します。
筋肉の発揮できる力は伸張性収縮>等尺性収縮>短縮性収縮という順になります。
アーサー・ジョーンズはこれを筋肉内の摩擦抵抗によるものと説明しています。
筋線維の収縮力が短縮性でも伸張性でも同じだとしても筋肉内の摩擦抵抗により、短縮性では弱く、伸張性では強く摩擦抵抗がかかるというものです。
ここで、摩擦抵抗というのは置いているものを動かす時などは静止摩擦係数と動摩擦係数というものがありまして、概して静止摩擦力の方が動摩擦力よりも大きいことになっており、摩擦力は垂直抗力、要するに動く接触面にかかる力が強いと摩擦が増すということになっています。
通常物理的な動摩擦力は一定にかかることになっていますが、空気抵抗を計算する場合などは速度に比例して摩擦力が大きくなると考えます。ですので、スカイダイビングなどで落下速度がある程度まで来たら一定になるのは重力加速度による引力と速度に比例する空気摩擦抵抗が拮抗した状態になっているということです。
私は現実の筋肉内摩擦抵抗は垂直抗力によってもスピードによっても増すように思います。
どちらにせよ、一般的に筋肉はほぼ紡錘形をしているので、収縮している時に隣の筋線維との接触面にかかる力が増し、摩擦抵抗が大きくなると考えられます。

ただ、筋肉内摩擦抵抗で考えると、伸張性収縮>等尺性収縮という不等号がもし静止摩擦力が等尺性収縮で、動摩擦力が伸張性収縮と考えた場合は正しくない可能性もあるかと思います。
実際にトレーニングを指導しておりますと、運動中に等尺性収縮状態で止まる方がおられますが(もちろん私は関節をロックした状態にならないようにしています)、どうもその時に発揮しているパワーが小さく、少し休んでいるように見えます。伸張性収縮で耐えながら筋肉を伸ばす時よりも楽そうに見えなくもないです。ですので、私の感覚としては筋肉内摩擦抵抗は等尺性収縮の時に最大になっているのではと疑っています。
仮に静止摩擦力が最も大きかったとしたら、筋トレとしての運動中は出来るだけ静止しない、等尺性収縮状態を作らないというのが重要かと思います。



パワーの減衰


しかし、訓練された人間でも100m走の10秒くらいしか全力で最大パワーを出し続けることしか出来ないわけで、発揮できるパワーは減衰していきます。
高強度な運動をするというのは時間当たりの仕事、エネルギーを最大にすることです。しかし、ハイパワーであるほどエネルギーを急激に消費するわけで、中強度な運動に比べて時間とともに筋肉のパワーは一気に減衰します。
ドロップセットで一気にやり込めば、100sの力で運動できてた人もあっという間に10sも動かせない状態になるのはトレーニングをしたことのある人なら分かると思います。
どこまでやり込むか出し切るかという話がありますが、あくまでも高強度ハイパワーな運動に適応させることが目的ですから、過度に低強度にしかできない運動になっても繰り返し、出し切ることに意味が無いと思われます。
結局、○s×□回がエネルギー消費の値であるように、高エネルギー消費の有酸素運動的なものは、筋力訓練には適さない運動と言えます。
ですので、あまりエネルギーを出し切ることにこだわらなくても良いと考えます。
それよりも、瞬間瞬間にエネルギーを使いまくる、出来るだけハイパワーな状態を維持し続ける、爆発的に短縮性収縮し、重さに耐えながら伸張性収縮することを出来る限り繰り返し、負荷の抜けない範囲で大きく止まらず動かし続ける。
そして、できなくなれば終了で、その後に更に追い込む必要はありません。
そういう運動が最も高強度、ハイパワーな運動となり、最も有効性の高い筋トレになると考えられます。



運動器具の選択


では、次にどのような道具を使って負荷をかけていくのが、筋トレに適した運動になるか考えていきましょう。

まず、バーベル、ダンベルなどのフリーウェイトで考えましょう。先ほどの筋肉を鉛直に吊るしたモデルでは、関節を介しますが、概ねフリーウェイトの負荷のかかり方と同じと考えてよいと思います。
ただ、トレーニング動作としてのフリーウェイトの欠点は、負荷(重量、力)が鉛直下方にしかかからないところです。
ですので、ベンチなどを使って自分の身体のポジションを移動して筋肉に負荷がかかる角度にする必要が出てきます。
フリーウェイトを使った様々な種目は、結局重力方向にしか負荷がかからないものを目的の筋肉の運動にするためのものと言えます。

次に、一般的なウェイトスタック式(ピンを指して重量を調節する)のマシンについて考えてみましょう。
マシンの利点は、粗悪なものでなければ身体が固定され、動かせば目的の筋肉に負荷がかかる運動にデザインされています。
また、滑車を使って負荷のかかる方向も自由自在に変えれますし、負荷のかかり方もアームの長さの調節や輪軸を使って、角度によって負荷を調節する可変負荷抵抗もかけれます。
フリーウェイトのようにバランスを取ったりするテクニックがなくても、思いっきり力を出しさえすれば良いという利点があります。
しかし、ウェイトにかかる重力を負荷抵抗として利用しているのですが、そのウェイトを支えるガイドポスト、各種滑車や稼動部分での摩擦抵抗が、筋肉内摩擦抵抗と逆方向に働き、短縮性収縮でさらに負荷が増し、伸張性収縮では負荷が軽くなってしまうという致命的欠点があります。要するに、筋肉にハイパワーな運動をさせようと思うと、フリーウェイトに比しマシンの方が困難な場合もあります。大きな可動域を取れるのは利点なのですが、その割に本来はより大きな負荷に耐えられる伸張性収縮でのエネルギー消費がどれだけゆっくり戻しても軽くなってしまうため、トータルでのパワーはかなり少なくなってしまいます。
運動中は頑張ったつもりでも、フリーウェイトに比べてマシンの方が肉体への負担が軽く感じられるのはそのためではないかと考えています。
そういったウェイトスタック式マシンの欠点を最小限にしようと考案したのが、私の開発したゼロフリクションになります。

次に、ハンマーストレングスのようなプレートローディングなどのレバレッジを使ったマシンですが、摩擦抵抗がかかる部分がヒンジ部分のみという利点はありますが、固定されたウェイトが円運動する時の重力を利用するので水平に重量がなった時にもっとも負荷が増しますが、最上下部分に近づくにつれて負荷が一気にゼロに近くなるという欠点があります。要するに可変負荷抵抗をコントロールしにくい。極端に重くなったり軽くなったりする部分が出るマシンになってしまいます。強度の高い運動は可能ですが有効可動域の狭さを理解しないと、効果の高い運動ができません。

次に、ゴムチューブやバネを負荷抵抗に利用した運動について考えて見ましょう。
こういった負荷抵抗は伸ばせば伸ばすほど抵抗が大きくなるという特性がありますので、これもかかる負荷をハイパワーな運動にするのにテクニックが必要となります。
チューブやバネを固定した方向にしか負荷はかかりませんし、有効可動域が狭く、負荷抵抗の調節も簡単ではないので、ある意味熟練したトレーニーはトレーニング可能かもしれませんが、熟練すると力が強いでしょうから負荷が軽すぎるかもしれません。ということで、効果的な筋トレには適さないかと思います。
また、バネを運動の補助にして負荷抵抗にしていない運動器具も見かけますが、これは筋肉に負荷抵抗をかけるのに逆行しているので、筋トレに適さない運動になります。

最後に油圧や空気圧を使ったポンプによる抵抗を使ったマシンについて考えてみましょう。
油圧や空気圧を使ったマシンにも完全にポンプを閉鎖したものと、ある程度開放し動くときの抵抗にするだけのものとがあります。
閉鎖したポンプを抵抗にしたものは、ゴムチューブやバネと反対で、圧縮されるほど反発する力が急激に増します。ですのでこれも有効可動域の狭さ、負荷抵抗の調節の難しさがあります。
また、開放した動作抵抗のみに使われるポンプ式のものは、短縮性収縮のみの運動となり、伸張するには拮抗筋による運動で戻す必要があり、目的の筋肉のみに限定したその他の抵抗を利用した上記運動よりも高強度、ハイパワーな運動は不可能です。



おわりに


物理の力学的に筋トレの様々な局面について話をしてきましたが、単純化したモデルで考えればそれほど難しい話ではないと思いますがいかがでしょうか。しかし、どうも文系、体育会系な方々はこれもなかなか理解し難いものがあるようです。
文系、体育会系の方もこれを機に物理、力学でこの世を理解することの分かりやすさに興味を持っていただけると幸甚です。
物理学、力学を勉強中の中高生の方も、知識と体感を加えながら筋トレを楽しんでもらえると、より理解が深まり良いかと思います。
賢く筋トレして、体力アップ、シェイプアップ、老化防止に努めましょう。